咬むこと
人間は単に栄養素を補給すれば良いという生き物ではありません。毎日の食事をしっかりと良く咬んで食べることが非常に重要です。咬むことで食物を細かく粉砕・臼磨するとともに、唾液としっかり混ぜ合わせることによって、嚥下後の消化・吸収を助けています。また、咬むという行為自体が消化器官の活動を促し、効率よく食物から栄養素を吸収できるようにしてくれます。さらに咬むという行為は脳を刺激し、脳の活動を正常化し活性化させる働きもあります。咀嚼時に分泌される唾液にも消化作用や抗菌作用、パロチンなどのホルモン分泌など様々な機能を持っています。そして何より食事における咬むという行為は食事を楽しむ喜びの大きな部分を占めており、歯触りや咬みごたえを通じて食事を摂る快楽を与えてくれるのです。
人間は毎日食べたものからできています。食べた物の栄養素が血や肉や骨になるのです。ですから毎日の食事で滋養豊富な食品をしっかりと摂ることはとても大切なことですが、朝、せっかくの新鮮な野菜をグリーンスムージーにして飲むなどという事は、人間の咬むという行為を失わせてしまう愚行ですから、行うべきではありません。野菜は野菜としてなるべく新鮮なものをそのままの形でしっかりと良く咬んで摂るようにするべきですし、その他の食材もまた、なるべく自分の歯でしっかりと咬むようにして摂るべきです。
生まれつききれいな歯並び、良好な咬み合わせでむし歯も歯周病も無い人は、優れた咀嚼機能をいかんなく発揮して、何でもしっかりと良く咬んで食べることでまた、全身及び口腔内の健康が保たれます。しかし歯並び・咬み合わせの悪い人は当然咀嚼機能が低下しますし、むし歯や歯周病があったり欠損歯があったりすれば、良好な咀嚼を行うことが不可能となって、全身及び口腔内の健康の維持もおぼつかなくなります。
健康を維持していくためには何を食べるかはもちろん重要でありますが、どのようにして食べるかという事もまた、非常に重要なことなのです。そして正常でかつ良好な咀嚼機能が損なわれてしまっている人は、良好な咀嚼機能を回復させることが健康を維持していくうえで非常に重要となります。これが歯科医師が目指すべき目標であり、我々が社会に貢献できる存在意義なのです。
ですので歯並び・咬み合わせの異常がある人は、単に審美的な改善というだけでなく、生命活動の維持や健康増進のための良好な咬み合わせの再構築という意味で、矯正治療が必要となります。また、むし歯や歯周病、欠損歯などがある人は、単に痛みや腫れなどの急性症状を除去したり緩和するのではなく、また審美的な改善にのみ歯科治療を求めるのでもなく、何より咀嚼機能の回復とその維持に重点を置いた治療を行うべきなのです。
予防歯科というのは単にむし歯や歯周病になっていない人がこれからもむし歯や歯周病にならないように管理するのみならず、むし歯や歯周病、不正咬合などで損なわれてしまった咀嚼機能を改善し、さらに改善後の咀嚼機能をより長期にわたって良好に維持していくためのメンテナンスまで含むのです。逆に言えば予防歯科を伴わない歯科治療というものは、咀嚼機能の改善と維持という意味では全く意味をなさないものとなってしまうでしょう。
投稿日:2013年8月24日 カテゴリー:矯正歯科, 院長ブログ