歯周病の原因③~局所因子
歯周病は歯周病原細菌が引き起こすといっても、歯周病原細菌というのは特別な菌ではなく、誰の口の中にでもいる口腔内常在菌であると前に書きました。そして歯周病というのは日和見感染症であるとも書きました。歯周病が日和見感染症であるのなら、発症の最も大きな因子は全身の免疫力の低下です。しかし局所の免疫力というか、細菌に対する抵抗性の低下もまた、歯周病の発症に影響を与えます。
細菌に対する局所の抵抗性の低下に関係するものとして、歯周組織の健全性、唾液、咀嚼、プラーク、歯石などが挙げられます。
人間の体は細菌やウイルスなどの微生物から体を守る物理的なバリヤーとして、上皮というものを持っていますが、この上皮というのは細胞同士が密にくっついていて、異物を体内に侵入させないようにしています。しかし体内で唯一この上皮のバリヤーが切れている部分が、歯と歯ぐきの境目である歯周組織なのです。
歯周組織の健全性が損なわれる原因として、栄養欠乏があります。歯肉粘膜やその下の粘膜固有層はタンパク質でできていますから、タンパク質が欠乏すると正常な細胞のターンオーバーが出来なくなってしまいます。また粘膜固有層のコラーゲン繊維はタンパク質のほかに鉄やビタミンCを必要としますから、これらが欠乏しても歯肉の健全性が保てません。もちろん粘膜のターンオーバーには亜鉛やビタミンB群も必要です。ですから栄養欠乏は全身の免疫力の低下のみならず、局所の抵抗性も低下させます。
唾液には食物を消化したり、嚥下しやすくするための潤滑剤としての働きのほかに、口腔内の細菌の増殖を抑える抗菌作用があります。これらも栄養欠乏になると十分に抗菌物質が産生できなくなります。そして唾液そのものの量や質と、栄養とは密接な関係があります。さらに咀嚼は唾液をたくさん分泌させる物理的な刺激ですから、咀嚼をしないですぐに飲み込むような食べ方は、消化器官に負担をかけるばかりでなく抗菌作用も減退させてしまいます。
プラークや歯石は口腔内の細菌の増殖を容易にし、歯周組織が細菌からの攻撃を受けやすくなります。そのためプラークコントロールを行う必要があるのですが、歯周病の発症のメカニズムを知れば、プラークコントロールだけでは限局的な予防効果しかないことは、今までの説明で明白でしょう。さらに付け加えるならば、プラークコントロールというとブラッシングやデンタルフロス、歯間ブラシなどの清掃補助用具などを用いてプラークを除去したり、プラーク停滞因子である歯石を機械的に除去したりといったことばかりが注目されます。しかしプラークは砂糖やブドウ糖、果糖などの糖類から細菌が産生するものであるのだから、プラーク産生の原因となる糖類の摂取を控えることもまた、プラークコントロールとしては重要であることが分かります。
歯周病とは全身的な免疫力の低下に加え、局所因子が相互に影響しあって発症するものであることがお分かりいただけたでしょうか。そうであるならば、歯周病の予防だけでなく、治療に対するアプローチとしても、これら全身および局所の発症要因に対し対応する必要があるのです。
ですから、歯周病の治療を希望する患者さんは、こういったことに対応して治療してくれる歯科医院を選んで下さいね。決して治らない治療のためにお金や時間や労力をつぎ込むことがバカバカしいと思うのならね。
投稿日:2013年9月12日 カテゴリー:その他歯科治療, 院長ブログ