戦後の日本人の口腔内は本当にひどい状態で、多発性のむし歯(ランパントカリエス)に罹患する子どもたちが多くみられました。これは戦後の物資不足による栄養欠乏が密接に関係しています。これと歯科医療の不備とが重なって、現在80歳以上の多くの老人が無歯顎(総入れ歯の状態)となっています。これは若いころに栄養欠乏でむし歯になった歯を、適切な治療が受けられなかったせいでどんどん抜かれてしまったからなのです。
栄養欠乏は歯を酸から守る働きが低下することによって、間接的にむし歯になりやすくなります。これは妊娠中や出産後に母体がむし歯になりやすくなる理由と同じです。唾液の酸の中和能や再石灰化能が低下することによって、またお口の中の免疫機能が低下することによって、むし歯になりやすくなるのです。
最近では小さい子どもでお口の中全体がひどいむし歯の子というのは、滅多に見かけなくなりました。しかしそれでも小さいうちからたくさんむし歯を作ってくる子どもには、共通点がみられます。砂糖の摂取が多いことはもちろんのことですが、栄養欠乏もまた認められます。
現代の子どもにみられる栄養欠乏は、主に二つのパターンがあります。一つ目のパターンは親がファーストフードやスナック菓子等ばかりを与えている場合。二つ目のパターンは親が子どもを粗食や玄米菜食で育てている場合です。子どもは成長期には体を維持する栄養以上に成長のための栄養を必要とします。このように特別の栄養を必要とする時期に栄養欠乏になると、むし歯が多発するだけでなく、心身の成長に重大な影響が出てしまいます。
子どもが過酷な環境にさらされているのを見ることは、非常に心が痛みます。しかし、むし歯の治療時に子供の育て方にまで言及すると、親が怒って二度と連れて来なくなることも良くあります。とある“自然派”のママは、自分の子どもがむし歯になっているのに、「乳歯はどうせ生え変わるのだから、むし歯になっても問題無い」と言い放っていました。本当に残念でなりません。