感染症と慢性疾患
人間が発症する様々な疾患について、大きく分けると感染症、慢性疾患、遺伝性疾患の三つに分かれます。このうち感染症と遺伝性疾患は野生動物でも見られますが、慢性疾患においては滅多にみられません。まあ、遺伝性疾患自体も非常に稀ではありますが。
野生動物にみられる感染症としては、1950年から1953年までオーストラリアに住む野ウサギに流行した粘液腫症や、現在でもカナダ~北米で野生のシカやトナカイに流行しているCWD(慢性消耗性疾患)が有名ですね。また遺伝性疾患の例として、いわゆる白子(ホワイトタイガーやホワイトライオンなど、アルビノ)が分かりやすいでしょう。
もちろん野生動物にだって慢性疾患は存在しますが、実際に確認されることは非常に稀です。そして人間であっても、例えば代表的な慢性疾患であるむし歯(齲蝕歯)というのは、農耕革命以前の人類や、伝統的な生活を営む先住民族にあって
は非常に稀です。しかし、農耕革命以降の人類や、特に現代の先進国に住む人々にとっては、とてもポピュラーな疾患となっています。
感染症と慢性疾患というものは、必ずしも厳密に区別できるものでなく、また遺伝性疾患においてもそのすべてのメカニズムが解明されていないものが大半です。さらにいえば、全ての生物は遺伝子的な変異が起こりうるという点で、疾患となることもあれば適応や進化となることもあり、遺伝子の多様性や変異性はマイナスだけとは限りません。
感染症においては、免疫力が低下したり、または免疫力が未熟な人に対して特に重篤となる疾患もあれば、逆に免疫力の高い成年層や壮年層で猛威を振るうが、免疫力の低い人にはそれほど脅威とはならない感染症もあります。前者の代表が日和見感染症であり、また結核やインフルエンザなどもこの範疇に入ります。また後者の代表として、はしか、天然痘、腺ペストなどが挙げられます。
過去の歴史においては、免疫力が高い人にとってより脅威となる感染症でかつ、死亡率の高い感染症は“疫病”と呼ばれ、特に恐れられていました。また、免疫力に関らず高い死亡率を生み出す熱帯性の感染症(マラリア、黄熱病、アフリカ眠り病など)もまた、非常に恐れられていました。
高度な先進医療を求めることができる人間は、一昔前までは非常に裕福な特権階級に限られていました。特権階級の人々にとっては、貧乏人がかかる病気は自分たちには縁遠く、さほどの注意も払われませんでした。しかし一方で、金持ちや貧乏人の別なく、子どもや老人、成人や壮年の人々を無差別に殺す疫病に関しては、非常に高い関心が払われてきました。これが西洋医学発展の礎となったことは先に述べました。
科学の進歩のおかげで多くの感染症は克服されてきましたが、慢性疾患は克服される気配は全く無さそうです。そうであるのなら、人類が慢性疾患に苛まれる前の原始人の生活や、今もなお慢性疾患と無縁の生活を営んでいる先住民族から、慢性疾患にならない方法を学ぶべきでしょう。
東洋医学の根本原理に「万病は血液の汚れから起こる」というのがあるそうですが、だから血液をキレイにすれば良いと考えるのでは、西洋医学的な考え方と大差ありません。より根本的な問題として、「なぜ血液が汚れるのか?」という視点でものを考えることが無い限り、慢性疾患の真の予防法も治療法も、決して見つかることは無いでしょう。
投稿日:2015年2月19日 カテゴリー:予防歯科, 院長ブログ