この熱素説を否定し、燃焼は物体中の炭素と、空気中の酸素との化学反応であることを突き止めたのが、18世紀の偉大な科学者であったラボアジエです。彼は密閉空間で物質を燃焼させると、燃焼前と燃焼後で総重量が変わらないことを発見しました。これは「質量保存の法則」といいます。
またラボアジエは、生物も食べ物を摂り酸素を吸って熱を出していることから、動物の体内でも燃焼が起こっていると考えました。ラボアジエのこの発見によって、人間を含む動物は、炭素の含まれた食事をし、呼吸から酸素を取り入れ、体内で燃焼させることによって熱とエネルギーを得ていると考えられるようになりました。
19世紀に入るとカルノー親子が蒸気機関を発明し、熱が運動エネルギーへ変換できるということが分かり、イギリスのジュールが水中で羽根車を回転させたときの温度上昇の関係を「熱の仕事当量」という関係式で表し、カロリーという考えが定着しました。
一方19世紀の偉大な生化学者であるドイツのリービッヒは、食べ物の栄養素はタンパク質、糖質、脂質の3種類からなることを発見しました。人間を含む動物は水分を除くと主にタンパク質によってできており、脂質は貯蔵用のエネルギー源であって、糖質はわずかしか含まれないことから、タンパク質は体を構成する栄養素となり、脂質と糖質は活動のためのエネルギーとなると考えました。
リービッヒの弟子であったフォイトとペッテンコーファーは、人間が一日に必要な栄養摂取量をカロリーベースで確定するための実験を行い、人の一日当たりのエネルギー所要量を求めました。これが現在まで続く、カロリーベースの栄養学の始まりです。
この研究が求められたのには、当時の世界情勢が関係していました。20世紀初頭までは、人類の大きな問題の一つが食料問題であり、飢餓はどの先進国にも起こりうる深刻な脅威でした。このためもし食糧不足が起こった時に、国民一人あたりにどのくらいの量の食料を配給すれば餓死を防げるかが求められたのです。
また、ヨーロッパを中心に戦争の多かった時代では、軍隊での食料配給で、兵士一人当たりどの程度の量の兵糧を支給すれば正常に軍事行動を営めるか、その必要最低量も知る必要がありました。
このように所要摂取量をカロリーで計算するというのは、人間が活動するための最低限度の必要量を設定するためのものであって、ダイエットのためではありません。カロリーが足りないから痩せていく事はあっても、カロリーが多いから太っていくという事にはならないのです。
実際に肥満とカロリー摂取には直接の因果関係はありません。誤った知識に基づいたダイエットを行うから、期待通りの結果が得られないのだという事に、皆さんも早く気づいてくださいね。