伝統的な生活を今に伝えるマサイ族ですが、彼らの食生活について紹介しましょう。
まず、マサイ族は狩猟民族ではありません。アフリカには狩猟民族も存在します(クン・サン族、ピグミー族など)が、マサイは牛を飼育する遊牧民族です。現在では農耕を行うマサイ族も存在しますが、マサイ族は元々「牛を飼う人」というのがルーツですから、農耕を行う人たちは同じマサイ族出身であっても、マサイとは見なさないマサイ支族もあります。
マサイ族の主食は牛乳です。マサイ族は牛乳と牛の血、そして時々少量の肉だけで生活するのが伝統的な食生活です。肉は牛の肉であったり、他の家畜であるヤギやヒツジの肉であったりします。しかしマサイ族は日常的に肉を食べることは無く、儀式の時やお祝いのときなど、特別なときにだけ肉を食べます。
マサイの家畜は牛だけでなく、ヒツジやヤギもいます。しかしヒツジやヤギのミルクは通常利用しません。これら家畜は肉を取るためだけに飼育されています。牛は牛乳や血、そして潰して肉を取ったりします。このように牛はマサイにとって非常に貴重な動物であり、ゆえに財産となっています。
マサイは野生動物の肉は食べません。よって狩猟も行わないのですが、儀礼的な意味合いでライオン狩りを行う事があります。マサイの儀礼として、幼少期から下級青年に昇格するための儀式が「割礼式」であり、また下級青年から上級青年へ昇格する儀式が「エウノト」です。エウノトに際し、勇気を表すためにライオン狩りが行われます。
マサイの人たちは朝食も牛乳なのですが、最近では牛乳に大量の砂糖と茶葉を加えて煮出した「チャイ」を摂る家庭も多いそうです。どの先住民世界でも、西洋文明と接するようになると砂糖が入ってきて大量の砂糖を摂取するようになりますが、マサイも例外ではないようです。
しかし、マサイは伝統的に甘い物を全く摂らないかといえば、そうでもありません。他の先住民族同様、蜂の巣を見つけたら、巣からハチミツを取って食べたりします。しかし、基本的に果物や野菜などは食べません。
マサイは植物性食品を一切摂らないのかというと、そうでもありません。マサイ族は古くから近隣の農耕民族との付き合いがありますから、イモ類やトウモロコシなどの穀物なども手に入れることがあります。しかし、マサイはできれば牛乳だけで生活したいと考えていて、植物性食品は積極的に食べたりはしません。
特にマサイは妊婦には、穀物を与えません。マサイは「穀物は人間を弱くする」と信じているため、妊婦に穀物を与えると弱い子どもが生まれてきてしまうと考えるからです。マサイは妊婦には特に肉を積極的に食べさせ、健康で丈夫な赤ちゃんが生まれるようにします。
マサイも他の先住民族同様、栄養学的知識など、全くもちあわせていません。それでも祖先から続く言い伝えや文化を守ることによって、優れた肉体や健康を維持しているのです。そしてマサイ族は、「アフリカでもっとも強靭な肉体を持つ民族」と自分たちが言われている理由は、牛のおかげであると信じているのです。