日本の保険医療制度においては混合診療は禁止されています。しかし、歯科医療において
は表向き混合診療は禁止されていますが、実態は混合診療が黙認されています。世界的に
みて異常に低い診療報酬と混合診療の黙認によって、歯科ではぼったくり診療が蔓延して
います。それを端的に示す良い例が、矯正治療です。
かつて矯正治療は矯正専門医が矯正治療専門クリニックを開設し、矯正治療を行っていました。保険医療機関の一般歯医者に矯正治療が必要な患者が来た場合、歯医者は矯正専門医に患者を紹介していました。
かつてまだ歯科の診療報酬が現在ほど低く抑えられてはいない時代には、このシステムは上手く動いていました。しかし、厚生労働省の歯科医療費抑制と、歯科医師会の混合診療黙認の要求によって、現在では全く状況が変わってしまいました。
現在では多くの歯科保険医療機関では、低すぎる診療報酬によって苦しい経営を余儀なくされています。そこで黙認されている混合診療(保険外診療)によって、利益を上げようとしています。保険適応外の矯正治療は保険医にとっては美味しい治療です。これをみすみす紹介して手放してしまうのはもったいないと考えるようになりました。
そこで歯科保険医療機関でも、矯正患者を紹介せずに、混合診療で自分の歯科医院に取り込む歯医者が増えました。しかし、矯正治療は高度に専門的な知識や技術が要求される治療です。保険中心の一般歯科医が簡単に手を出せるような治療ではありません。
そこで、一般歯科医でも簡単に手掛けられる矯正治療と称して、一般歯科医向けの小児用床矯正セミナーや、マウスピース矯正セミナーなどが行われるようになりました。多くの一般歯科医はこのセミナーに飛びつき、一日~二日のセミナー受講だけで矯正治療を自分で手掛けるようになったのです。
しかし矯正治療はそんなセミナー程度で簡単にできるようになる治療ではありません。すぐに自分の手に負えなくなった患者を持て余す一般歯科医が続出しました。しかし日本の医療裁判においては、たとえ患者側が訴えても医療側が負けることはほぼありません。こうして泣き寝入りする羽目になった患者が続出するようになったのです。
これは矯正治療に限った話ではありません。インプラント治療やそのほかの保険外診療でも、同様の事態が起きています。保険医は保険診療のみを取り扱い、保険外の高度な歯科治療は専門医に紹介すべきなのですが、先の混合診療黙認という現状があるために、こういった惨状が一向に無くならないのです。
保険医療機関で自費を勧められるのには、こういった裏事情がありますから、もし保険医が自費の治療を勧めてきたら、その勧めは断って、専門医にかかるべきでしょう。