当初の予防歯科では、オーソモレキュラーの糖質制限をそのまま指導していました。ただ
し、サプリメントは使わずに、食事指導のみで栄養改善を試みていました。
血液検査を続けていると、ほとんどの患者でペプシノーゲン1やペプシノーゲン1/2比が低いことに気が付きました。ペプシノーゲンは胃粘膜の萎縮、すなわち胃萎縮の検査項目であり、この値が低くなるということは胃粘膜が委縮していることを示します。そしてまた、ペプシノーゲンは胃で胃酸と合わさってペプシンとなり、タンパク質を分解する酵素です。ですからペプシノーゲンが低値ということは、胃液の分泌低下を示します。
栄養療法で胃萎縮や胃液の分泌低下があると、非常に厄介です。というのも多くの患者は長年のタンパク質摂取不足による低タンパク状態です。ですから低タンパク状態を改善するために、良質のタンパク質を積極的に摂取する必要があります。
ところが、タンパク質が胃で十分に消化されないと、タンパク質の最終分解物であるアミノ酸に分解されず、消化不良を起こしてしまいます。そうなると、せっかくタンパク質を摂取しても、なかなか低タンパク状態が改善されません。そしてまた、胃壁の萎縮の原因もまた、長年にわたるタンパク質の摂取不足ですから、これも改善しないことになります。
こういう時、栄養療法では胃での消化能力低下を補うために消化酵素を用いたり、また最初からペプチド化されたタンパク質(プロテイン製剤)や、アミノ酸を用いて低タンパク状態を改善します。
しかしながら、当クリニックで実施しているのはあくまで予防歯科であり、栄養療法ではありません。何らかの病状の改善のための食事ではなく、一生続けていく人間本来の食事法を指導しているのですから、サプリなどに頼るべきではありません。
どうしたら良いかと思案している時に、渡辺信幸医師の「一生太らない体をつくる「噛むだけ」ダイエット」という本を知りました。渡辺医師はMEC食という食事法を提唱していて、僕はフェイスブックでその存在を知りました。早速この本を読んでみると、食事を一口、口に入れたら箸を置いて、30回噛み噛みしなさいと書かれていました。
僕ハッと気づかされました。これだ!とひらめきました。そうです、胃での消化機能が低下しているのであれば、その機能を補うためにも、口の中で良く噛めば良いのです。そんな簡単な事を、よりにもよって歯医者である僕が気付かなかったとは、ずいぶんと情けない。答えはいつも治療している所にあったのです。
それからは胃萎縮や胃液の分泌低下が認められた患者には、食事は一口30回以上、よく噛んで食べるように指導しました。そうするとなんと、次回検査でペプシノーゲンの値が上がってきているではありませんか!やはり、よく噛むことでタンパク質の消化、吸収効率が上がっていたのです。
というわけで、つくづく人間の歯というものがいかに大切なものか、よりいっそう理解できました。患者がしっかりと食事を30回噛めるようにすること、それが僕の為すべきことであり、予防歯科のあるべき姿なのです。