人間は美味しいものが大好き。美味しいもののためなら平気で大金をつぎ込んだり、時間
や労力をかけて遠くに旅に行ったりします。食がただ単に栄養補給だとか、空腹を紛らわ
すだけのものであるのなら、松坂牛や神戸牛に何万もかけたりはしないでしょう。
松坂牛と普通の国産牛やアメリカ産牛、オーストラリア産牛との値段の違いは栄養価ではありません。きっと栄養価であれば似たようなものでしょう。飼育環境?安全性?ブランド?いえいえ、本質的な値段の違いは、味の違いです。すなわち、「美味い」から松坂牛は高い値がついているのです。
人がまだサルの仲間だったころ、道具を使うことが上手なサルがいました。またそのサルは、火を使うことも覚えました。道具を使って獲物を獲り、火で調理して食べたその美味しさが、そのサルを虜にしてしまいました。そのサルは次の日も、またその次の日も、道具を使って獲物を獲っては火で焼いて食べることを繰り返しました。
狩猟によって得られた動物の肉は非常に栄養価が高く、また火で調理することで消化がたやすくなりました。そのサルは毎日美味しいものを食べ続け、栄養状態がどんどんと良くなっていきました。
栄養状態が良くなったサルは、体格が良くなって運動能力が高くなり、狩猟の能力が向上しました。また脳も良く働くようになり、頭を使ってより複雑で効率的な道具を作るようになりました。
さらにそのサルは、単に火を使って調理するだけでなく、様々な調味料や調理法を考え出し、料理のバリエーションを広げていきました。そのサルの子孫が、我々人間なのです。
だから我々は今でも、原始的な食材と調理法、すなわち大型草食動物(牛)の肉を、ただ単に焼いただけ(そこに少量の塩と胡椒をお好みで加える)の料理、すなわちステーキに魅了されるのです。あのジューシーで風味豊かなお肉の食感と味は、まさに混じりっけなしの美味しさです。
だからこそ、食にかかわる人たち(農家や畜産家といった生産者、加工業者、流通業者、小売業者、飲食業者など)は、何よりも美味しさにこだわるべきなのです。人は本物の美味しさを知れば、やはり混じりっけなしの美味しさに行き着きます。食にかかわる人たちは、自分の扱っている食品が混じりっけなしの美味しさなのか、ズルはないか、もっと良いものは無いか、良く考えて欲しいのです。だってそれが、僕が求めているものだし、みんなが求めているものなんですから。