ウチのクリニックでは保険診療をしていないから、保険診療のことには疎くなってしまい
ました。それでちょっと小耳にはさんだのですが、来年の1月からファイバーコアが保険
適応になるそうですね。これって、保険医療機関にとっては、相当大きな問題となること
でしょう。
ファイバーコアとは、根の治療(根管治療)を施した歯に被せ物を入れる前に作る土台の一種です。コンポジットレジンというプラスチックの中にグラスファイバーの芯棒を入れて強化した土台で、現在歯科で用いられている土台の材料の中で、最も優れた材料といわれています。ウチでも土台は100%ファイバーコアです。
現在までは土台に認められている材料にはメタルコア(金属の土台)とスクリューポスト(コンポジットレジンの中に金属のネジのような芯棒を入れる、歯根が破折するリスクが極めて高く、ヨーロッパでは使用禁止)の二つがありましたが、土台の材料と…して最も優れたファイバーポストが保険適応になるのは、患者にとっては福音でしょう。しかし事はそう簡単ではありません。
ファイバーコアの点数(診療報酬の事、1点10円で計算する)は、レジンコア126点、ファイバーポスト89点(小臼歯、大臼歯は2本まで算定可)、間接法なら印象26点が算定でき、合計241点(2410円)となります。ファイバーポストを自費で算定している所は概ね15000円~20000円くらいのところが多いでしょうから、これは大きな減収です。しかし本当の問題はこんな小さな金額にはありません。
保険診療においては、被せ物がセラミックなどの自費の場合、土台から自費にしなければなりません。逆に言えば土台を保険にしたのなら、被せ物も保険で入れる必要があります。これが前歯なら保険診療でも従来通りのレジン前装冠、小臼歯ならレジンブロックからのCAD/CAM削り出し冠で、白い歯を入れることが可能です。保険診療なら当然、そうすべきですね。
しかし、現在のところ大臼歯には白い歯の適応はありませんので、被せ物は金属になります。白い被せ物を入れたいとなると、保険外のセラミックの被せ物となるでしょうが、ここで保険のルールが問題になります。そう、被せ物が自費の場合、土台も自費としなければならないのです。
そしてまた、保険診療には決定的に重要なルールがあります。それは、「保険で認められている治療は保険で行わなければならない」というルールです。このルールがあるために、現在でも保険医療機関は自費で歯の根の治療(根管治療)ができません。もし、保険医療機関で自費の根の治療を行っている所があれば、それは明確な法律違反であり、犯罪行為です。犯罪行為を行っている歯科医療機関は摘発され、処罰されるべきです。皆さんももしそういうところを見つけたら、最寄りの厚生局に通報しましょう。
このルールは当然ファイバーコアにも適応されるでしょう。ですから大臼歯にファイバーコアの土台を入れたら、それは即ち保険診療となり、自費で行うことはできません。そして保険の土台を入れたら、被せ物を自費にすることはできません。
ですからこれは、実質上保険医療機関においては自費のセラミックの被せ物ができなくなるということでしょう。確かに現在でも保険医療機関における自費の被せ物は、不正やぼったくりの温床となっているのは、僕も前に記事にした通りです。
当然のことながら保険医療機関では、保険適応の治療だけを受けることが望ましく、今回のファイバーコアの保険導入によって少しでも保険医療機関での不正診療やぼったくりが減ることになれば、今回の改正は大きな意味を持つことでしょう。