母乳しか与えていない赤ちゃんに、むし歯ができることが稀にあります。歯科では母乳は
むし歯の原因にはならないと考えられています。そもそも人間を含め哺乳類では、生まれ
たばかりの赤ちゃんは皆、母親の乳を飲んで大きくなりますが、むし歯になることは決し
てありません。では、なぜ母乳保育でむし歯になることがあるのでしょうか?
まず簡単なおさらいですが、むし歯はお口の中の菌が、糖を原料に酸を作って歯を溶かす病気です。ですからむし歯の原因は糖であり、また酸に対する抵抗力の低下もまた、むし歯のなりやすさと関係しています。
人間の母乳には糖が7.1%含まれますが、このほとんどが乳糖です。乳糖とは単糖であるブドウ糖とガラクトースが組み合わさった二糖類であり、赤ちゃんの小腸粘膜で産生されるラクターゼという酵素で分解されます。細菌はラクトースを分解するのが得意ではないので、乳糖から酸は作られにくく、このため母乳はむし歯の原因には通常ならないのです。
母乳が作られるのはお母さんのおっぱい、すなわち乳腺です。乳腺で血液中のブドウ糖から乳糖を合成しています。乳腺とは哺乳類の進化発生学的にいうと、皮膚の汗腺から発達した組織であると考えられています。腺組織は血液を濾して体液を作っています。ですから血液の状態が、母乳の状態に大きな影響を与えるのです。
人間の血糖値(血液中のブトウ糖の濃度)は通常80~90mg/dlで維持されています。糖質を摂取すると血糖値が上がりますが、健康な人では140mg/dlを越えて高くなることは無く、また70mg/dlより低くなることもありません。ところが糖質の過剰摂取で低血糖症になると、血糖値調節機能が乱れてしまいます。
血糖値が170mg/dlよりも高くなると、腎臓での原尿からのブドウ糖の再吸収が阻害され、尿中にブドウ糖が混じるようになります。尿に糖が混じることから、糖尿病と呼ばれます。尿に糖が混じるような高血糖状態になると、尿以外の体液にもまた、ブドウ糖が混じり出るようになります。皮脂腺に糖が混じれば糖を好物とするアクネ菌の異常増殖が起こってニキビや吹き出物となり、また女性の膣分泌液に糖が混じれば糖を好物とするカンジダ菌の異常増殖が起こって膣カンジダ症になります。
高血糖状態は当然、母乳にも影響を与えます。本来混じらないはずのブドウ糖が母乳に入り込むことによって、母乳がむし歯の原因となってしまうのです。ですから母乳でむし歯ができるという場合、母体の血糖値調節異常が認められ、糖質過多、特に甘い物の摂り過ぎがあるのです。
ちなみにこのような母乳で子育てしていると、むし歯以前に良く現れる症状に、夜泣きや疳の虫があります。母乳に本来含まれないはずのブドウ糖を大量に赤ちゃんが摂取すると、赤ちゃんが高血糖状態になり、低血糖症となります。また、母乳が甘くなるため、甘い物依存にもなります。
ブドウ糖入り母乳を飲んだ赤ちゃんは、大脳辺縁系の側坐核が刺激され、麻薬的高揚感を得ます。また、血糖値が急上昇してインスリンが過剰分泌し、今度は低血糖となってしまいます。すると血糖値上昇ホルモンであるアドレナリンが分泌され、興奮状態となり、また甘い物依存なため、すぐにまた母乳を欲しがるようになります。
これが母乳をあげて2時間もしないのに、またすぐにお乳を欲しがって泣きだしたり、急に興奮状態になって泣き叫んだり、夜中に何度も起きて泣いたりする原因なのです。大体乳幼児で興奮してすぐに泣いたり叫んだり暴れたりする子は、発達障害なのではなく、単なる低血糖症で甘い物依存なだけのことが多いのです。
というわけで、乳幼児でむし歯が認められた場合、特に母乳のみで育てているのにむし歯ができた場合、母親の食事指導が急務なのですが、残念ながら当クリニックにそのような子どもを連れてきた母親に予防歯科精密検査を勧めても、今までのところ全員、二度と来なくなってしまいました。甘い物の依存性はコカイン以上であることが、この事からも良く分かりますね。