例えばロシアのツンドラ地帯に住むトナカイ遊牧民族(チュクチ族、ネネツ族など)は、トナカイの放牧を行って生計を立てていますが、トナカイ自体は元々この地方に野生動物として生息しているものです。柵で囲まれた放牧地は存在せず、昔ながらの伝統的なテリトリーを季節によって移動して、トナカイを管理しています。
北米先住民族のインディアンのうち、大平原部に住むインディアンは、かつてこの地に5千万頭以上生息していたとされるバッファローを追い求めての移動生活を行っていたとされます。バッファローは群れを成して生活する、いわゆる群居性の有蹄類であり、バッファローの移動や群れの管理にインディアンが関与していたのであるならば、遊牧民族であったと考えるべきであろうし、実際そうであったろうと考えられます。
食料を人為的にコントロールする技術を人類がいつ身に付けたか、これをもって狩猟採集民族と遊牧民族や農耕民族を分けようとするならば、ほぼ間違いなく農耕よりも遊牧の方が先に起こったであろうことは、想像に難くありません。生活様式と身体の健康という点でも、狩猟採集民族と遊牧民族では、平均身長や体格、健康状態、平均寿命などで大差はありません。しかし農耕民族となると、顕著に身長や体格が劣化し、健康状態が悪くなり、平均寿命が低下します。
こう考えると、約6~7万年前に起こったとされる人類のアフリカ脱出も、大型哺乳類の管理の結果だったとも考えられ、人類は家畜を追って世界中に広がっていったのかもしれません。