先の投稿で「塩」は人類最初の肉味調味料だと書きましたが、ちょっとピンと来なかった
人も多いのではないでしょうか。そもそも塩はなぜ必要かということについて、簡単に説
明しましょう。
塩は塩化ナトリウムであり、人体に必要なミネラルであるナトリウムの主要摂取源です。ナトリウムは細胞外液である血液中に多く存在していて、細胞内液のカリウムとともに、細胞浸透圧の調整や、膜電位の調整に用いられています。ナトリウムが不足すると細胞内の浸透圧が保てなくなって細胞が壊れたり、膜電位が働かなくなってイオンチャネルが機能しなくなったりしてしまいます。
血液にはなぜナトリウムイオンがたくさんあるのか、それは、細胞の成り立ちを知る必要があります。
細胞は原初の海に生まれました。海は海水なので、ナトリウムがたくさん含まれています。細胞は内部にカリウムを蓄えることで、浸透圧調整と膜電位を働かせるようになりました。細胞膜で外界と細胞内部が遮断されていても、水分や栄養を取り込んだり、老廃物を排出したりするために、ナトリウム・カリウムのイオンバランスを利用するようになったのです。
その後動物が海から出て地上に上がるときにも、細胞の機能はナトリウム・カリウムバランスを利用する機能のままでした。そこで生物は陸上でも海中と同じ細胞の働きができるように、海水を体内に循環させるようになりました。これが血液です。
ですから血液にはナトリウムが多く含まれ、舐めるとしょっぱいのです。肉食動物は獲物の血液からナトリウムを摂ることができるため、ことさらに塩を必要とはしません。これに対し草食動物は、崖を登るカモシカやヤギをみても分かるように、土壌に含まれる塩分を摂取する必要があります。ウシを飼育している農家なら、ウシに塩を舐めさせる必要があることを知っているでしょう。
人間が肉食で新鮮な獲物を食べたり、血液を飲んだりすることができているうちは、塩を別に摂る必要は無かったことでしょう。しかし穀物をはじめとした植物性食品にはナトリウムはほとんど含まれませんから、別途塩を摂る必要があるのです。穀物に欠けている重要ミネラルであるナトリウムを、塩として添加することで肉味になるというのは、このような意味です。
しかしたとえ穀物に塩を加えて肉味にしても、穀物は肉ではありませんから、様々な栄養素やビタミン、ミネラルが欠乏します。実は栄養学の発展は、このような栄養欠乏がきっかけで進展していったのです。肉に豊富に含まれ、穀物には含まれない栄養素があり、それゆえ穀物中心の食生活では健康ではいられないことから、肉にあって穀物に無い栄養素とは何かという疑問が、必須栄養素やビタミン、ミネラルの発見につながっていったのです。