歯医者って、皆さんが思っているよりも良い暮らしなんてしていないんですよ。そもそも
現在の保険医療制度では、歯医者がある程度の利益を出すためには、一日最低30人以上
診なくてはならないのですから。30人って結構な人数ですよ。歯医者は内科と違って、
口の中を観察して薬出して終わり、というわけにはいきませんから。
歯医者というのは、人体の一部である歯や歯ぐきを削ったり切ったりする治療を行う仕事です。ですから医科でいえば外科系の治療を行っています。医科のドクターが一人で一日に30人ものオペを行えますか?もちろん歯科の治療は外科手術よりは簡単な処置ですが、それでも一日30人治療するとなると結構しんどいです。
例えば朝の10時から夜7時まで診療したとします。昼休憩が1時間半だったとして、実質的な診療時間は7時間半です。7時間半で30人治療するとなると、一人あたりにかける治療時間は15分になります。これは実際に歯科で一回の治療にかける平均的な治療時間です。
僕は保険診療を行っていませんが、一回の治療にかける平均時間は1時間です。15分ではちゃんとした治療など、出来るはずもありません。しかし保険診療では一人の患者に15分以上かけることは、診療報酬から考えて無理なのです。
だから保険医療機関で歯科治療を受けている患者は、一度にたくさんの歯を治療して欲しいだとか、通院回数を減らしたいので、一回にかける時間を長くしてほしいとか、そういうお願いをしてはいけません。お金は払いたくないけど、サービスの質は上げて欲しいなんて、わがままにも程がありますよ。
そもそも一日30人以上診ないと利益が出ない根本原因は、異常に低い診療報酬にあります。日本の歯科治療費は、OECD先進国平均の1/6~1/8、アメリカの専門医の1/12~1/20という、あまりに安い金額に抑えられているのです。なぜ日本の歯科治療費はこんなに安いのか、それは、厚生労働省が増加する日本の総医療費を抑制するために、もう30年以上も歯科の診療報酬を上げないできたからです。厚生労働省の歯科医療費抑制策によって、日本の歯科保険診療は、いびつに歪んでしまったのです。
保険診療は、患者からすれば安く医療が受けられる制度です。しかし、安いものには安いなりの理由があるのです。それを分かっていて歯科にかかるのであれば、特に何も言うことはありません。強いて言えば、保険医療機関の歯科を選ぶときには、一日来院患者数が30人以上のところを選ぶようにすべきでしょう。なぜなら、一日来院患者数が30人に満たない歯医者がなぜ潰れないのか、その理由と密接に関係しているからです。