現代型の栄養失調の特徴は、糖質過多でカロリー量は十分なのに、栄養欠乏で様々な問題
が起こっています。特に欠乏しやすい栄養素として、タンパク質があります。このため先
住民食でも他の糖質制限系の食事指導でも、タンパク質をしっかりと摂るように指導され
ます。
ところがタンパク質は、ただやみくもに摂れば良いというものではありません。摂り過ぎるとかえって害となります。そうはいっても、極端にタンパク質ばかりを摂るようなことさえしなければ、それほど危険というわけでも無いのですが。
極端にタンパク質ばかりを摂り続けた場合、飢餓状態となって最悪死ぬことがあります。この事が知られるようになったのは、南極や北極探検隊、アメリカ西部海岸地帯の初期探検者たちの多くが脂気の無いウサギ肉を大量に食べ過ぎたために罹ったとされる「ウサギ飢餓」と呼ばれる現象の描写によるものでした。
「普通の脂肪量の食事から、急にウサギの肉だけの食事に変えると、最初の数日間、食事の量はどんどんふえ、約一週間後には、最初の三倍か四倍食べるようになる。その頃には、飢餓と蛋白毒の症状がでている。幾度も食事をする。食べても食べても空腹を感じる。食べすぎのため胃がふくれて、気持ちが悪くてたまらなくなり、漠然とした不安をおぼえるようになる。一週間から10日後に下痢がはじまり、脂肪をとらないかぎりとまらない。数週間後、死がおとずれる。」(マーヴィン・ハリス:著、食と文化の謎、岩波書店、P47)
ウサギの肉は極端に脂肪が少なく、そのほとんどがタンパク質なので、タンパク質過多の症状が起こりやすいと考えられています。一般的にこの「ウサギ飢餓」を避けるためには、タンパク質が総摂取カロリーの50%を越えないようにしなければならないと考えられています。
日本人で並外れた肉体を誇ったボディビルダーのマッスル北村氏は、39歳の若さで亡くなりましたが、死因は飢餓、そう、この「ウサギ飢餓」でした。極限まで鍛え上げ、かつ体を絞り込んだ彼は、大会前に脂肪を付けるのを嫌がって、高タンパクで脂肪をほとんど含まない食生活をしていたために、ウサギ飢餓になってしまいました。
とはいえこの「ウサギ飢餓」は、それこそ大量にウサギの肉や、鶏のササミ、プロテイン等を大量に摂取して脂肪を全く摂らないというような極端な食生活をしない限り、滅多に起こるものではありません。そしてまた、糖質を極力減らしても、脂質をたっぷりと摂っていさえすれば、このウサギ飢餓は避けられます。ですから脂肪を意識して摂っている限りはウサギ飢餓の心配はありませんので、皆さん安心してお肉や魚介類、卵、チーズなどをたくさん食べてください。