僕が以前提唱した仮説に、「穀物は家畜のエサ」であるというものがありますが、これは
あくまで仮説ですから真偽のほどは分かりません。しかしながら、この仮説を用いると、
世の中のあらゆる物事がきれいに説明できることから、僕的にはお気に入りの仮説です。
とはいえ、物事を相対化して見ることのできる、オープンマインドの持ち主でなければ、
到底この仮説は受け入れられないでしょうが。
現生人類はその出現の時から、肉食でした。とはいっても、人類の祖先が肉食だったわけではありません。ネコ科の動物は祖先からずっと肉食だったのに対し、人間の祖先とされるサヘラントロプスや、猿人として知られるアウストラロピテクスくらいまでは雑食であり、肉食寄りとも草食寄りとも今のところは言えないでしょう。
というのも、霊長類のオランウータンやゴリラ、チンパンジーなどは人間と同じくビタミンCの合成能がありません。これは現生人類とオランウータンが分かれる1400万年より以前に、共通の祖先がビタミンC合成能を失ったということになります。ビタミンC合成能を失っても特に困らなかったのは、この共通の祖先の段階ではビタミンCを多く含む植物性食品をある程度は摂取していたからなのでしょう。そしてまた、オランウータンやゴリラ、チンパンジーは雑食性ですが、普段の摂取食物の8~9割が植物性です。
人類は草食寄りの雑食性動物から進化したというところが、現生人類がユニークな肉食動物となった所以なのでしょう。人類が他の肉食動物と違うところは、ビタミンCが欠乏しやすいというところと、脂質を多く摂取する必要があるというところです。
進化論的には、ヒト属からは基本的に肉食中心の食生活となったことが示されていて、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥス、ハイデルベルク人、ネアンデルタール人、デニソワ人などは、9割が動物性食品であったことが分かっています。現生人類もまた、基本的に9割が動物性食品で20万年近く生活していました。
ここで10割、すなわち完全肉食でないところが現生人類の特徴であり、これは進化の過程で雑食性でありかつビタミンC合成能が無いことの表れなのでしょう。現代においてもほぼ100%肉食のイヌイットや、動物性食品のみで生活しているマサイ族は、血中ビタミンCレベルが低いことが示されていますし、またイヌイットでは壊血病の症状がでた場合に松などの針葉樹の葉を煎じて飲むという民間療法が伝承されています。針葉樹の葉にはビタミンCが多いことから、先人の知恵として伝え続けられたのでしょう。
そしてまた、ヒト属の大きな特徴が、脂肪を多く摂取する必要があるということです。これはヒト以外の哺乳類に比べ非常に脳が大きいことに由来していると考えられます。元々霊長類の進化の流れの中で、ヒト属への進化が始まったきっかけが、動物の骨を砕いて、中の骨髄を食べるようになったため、という説があります。骨髄は非常に脂肪が多く、高カロリーで栄養豊富な組織です。脳はその60%が脂肪でできていて、ゆえにヒトは多くの脂肪を必要とするのでしょう。
5万年前に現生人類がアフリカからヨーロッパへと広がっていったときに、タイリクオオカミを家畜化してイヌとし、狩猟の補助として用いたことで狩猟の能率が劇的に向上したと前に説明しました。しかしながら、現生人類はマンモスを好んで食べていたのに対し、イヌはシカを主に食べていました。これはなぜかというと、マンモスは非常に脂肪が豊富な肉であったのに対し、シカは脂肪が非常に少ない肉だったからでしょう。
ほぼ完全肉食のイヌは、脂肪が少なく高タンパクの肉を食べ続けても、特に健康上の問題は現れないのに対し、人間は高タンパク食でかつ脂肪の少ない食事を続けると、「ウサギ飢餓」で知られる飢餓状態となり、最悪死亡します。このように現生人類は他の肉食動物に比べ、相対的に多くの脂肪を必要とする生き物なのです。
これはアボリジニーの行動によっても知ることができます。アボリジニーはカンガルーを狩った時、尾の一部を切って皮下脂肪の量を確認し、脂肪が少ない個体だった場合には、肉を取らずにそのまま捨てていくという行動をします。これは脂肪不足によるウサギ飢餓を避ける行動なのでしょう。
また、野生のムフロンやアルガリを家畜化してヤギやヒツジとしたのは、ミルクを採るためでしたが、ミルクを採る最大の目的はバターオイルを採ることでした。すなわち、脂肪を採るためにミルクを利用し始めたのです。
現生人類は肉食であり、かつビタミンCが欠乏しやすくて脂肪をたくさん必要とする生き物であることが分かると、世の中の色々なことが分かるようになります。次回は、そこからさらに発展したものの見方を紹介したいと思います。