脳・腸トレードオフと人類の進化の歴史を鑑みれば、進化の段階が古いほど、植物性食品に適応していると考えるのが自然です。であるならば、なぜネアンデルタール人やデニソワ人は、植物性食品中心の食生活とならなかったのでしょう?そしてまた、食物多様性が高いとされる現生人類もまた、ネアンデルタール人やデニソワ人との接触以前も、摂食以降も、1万年前の農耕開始までの間は一貫して肉食であり続けたのでしょうか?
ネアンデルタール人やデニソワ人の絶滅の主因は食料不足によるものとされています。そうであるならば、現生人類よりも植物性食品に適応しやすかったであろうネアンデルタール人やデニソワ人が、なぜ絶滅してまでも植物性食品の摂取を拒み続け、肉食にこだわり続けたのでしょうか?食料に適した植物性食品が無かったから?いえ、そう考えるのにもまた、無理があるでしょう。というのも現在我々が食用としている植物性食品の原種はほぼ全て、この時代にすでにあったと考えられていますから。
まあそれでも現生人類は猿人から原人への進化の過程で肉食を選択し、進化の過程で食物連鎖の頂点に立った、最強の捕食者であったと考えて良いでしょう。肉にこだわり続けたヒト属の最終形態が、現生人類なのです。
現生人類が最強の捕食者となった理由には色々あります。まず、現生人類は高度な脳を持っていたため、知能が高かったこと。そして体毛を喪失したこともまた、大きな違いです。現生人類は毛皮を縫製して服を作ったり、木や草から繊維を取って服を作っていたと考えられていますが、ネアンデルタール人やデニソワ人の遺構では針が見つかっていないことから、服を作ることは無く、あっても毛皮をそのままマントのように羽織っていただけと考えられています。
現生人類が服を作る技術を持ったということは、防寒着を身に付けることによって熱帯から寒帯まであらゆる気候帯に適応できるようになったことを指します。そしてまた体毛の喪失は皮膚の汗腺の進化を促し、発汗による体温調節を可能にしました。
これが原人や旧人では見られない、長距離を走る能力と結びつき、狩猟スタイルの決定的な違いを生み出しました。すなわち待ち伏せ型の狩猟から、追跡型への狩猟の変化です。
知能の発達はまた、道具の進化をも生み出しました。現生人類はそれまでの旧人が用いることの無かった飛び道具、すなわち投擲型狩猟具を用いるようになったのです。弓矢や投げ槍器によって、遠くの獲物を攻撃し、負傷させたのち獲物を執拗に追跡して、弱ったところでとどめを指すという狩猟スタイルです。
この追跡型の狩猟は、同じく集団で狩りをするオオカミの狩猟スタイルと基本的には同じです。このため現生人類はオオカミを家畜化してイヌとし、狩猟のパートナーとすることができたのでした。
野生のオオカミとは明確に区別される初期のイヌの骨格標本は、3万6千年前のものとされていますから、4万年前にはすでにオオカミやイヌを利用した狩猟を行っていたと考えることは無理な考えではありません。脳の進化、長距離を走るのに適した身体構造、服の制作、そしてイヌの家畜化。これらが現生人類を地上最強の捕食者にしたのです。
続きは次回で。