糖を摂れば、う蝕原性細菌によって酸が作られ、歯が溶けるのはどの人にも共通です。僕もあなたもみんな、甘い物を摂れば歯は溶けます。ではなぜむし歯になる人とならない人がいるのでしょう?それは、酸によって溶けてしまった歯を修復するという機能が人間には備わっているからです。この機能のことを「再石灰化」といいます。
人間は日々の食事の中で、糖を摂っています。糖を摂れば酸が作られ歯が溶けます。しかし唾液の中の炭酸水素イオンによって酸が中和され、その後唾液中のカルシウムイオンが歯にくっついて再石灰化するというわけです。ちなみに重曹でうがいするとむし歯にならないというのは、重曹は炭酸水素ナトリウムですから、重曹を水に溶かすと炭酸水素イオンが発生するからですね。
このように人間の体というのは、免疫力や抵抗力、自然治癒力という、体を守り健康状態を維持しようという機能が生まれつき誰にでも備わっています。ですから別に、歯磨き粉でハイドロキシアパタイトを補充しなくても、日常的に再石灰化は起こっているのです。
ということは、むし歯になるという事は、このむし歯菌の酸による脱灰(酸で歯が溶けること)と再石灰化のバランスが崩れたときに起こる疾患であるといえます。すなわち酸がたくさん産生され、また再石灰化がそれに追いつかないことで脱灰がどんどん進行し、歯に穴が開くというわけです。
酸がたくさん産生されるという事は、それだけたくさん糖を摂っているという事、すなわち砂糖の摂りすぎという事です。また、再石灰化が働かないという事は、体の正常な免疫機構や自然治癒力が働かないという事であり、この大きな原因として、栄養欠乏が挙げられます。すなわちむし歯という疾患は、糖質過多と栄養欠乏によって起こる疾患であるという事なのです。
これが分かればむし歯の予防もできるようになります。要は甘い物を控え、栄養豊富な食物をしっかりと摂ること、ということです。これはむし歯だけに限らず、全ての疾患の本質的な予防法であり、人間本来の健康的な生き方の基本でもあります。
だからこそ、予防歯科においてお口の中をいくらいじっても意味が無いのです。そしてまた、この原則を知っているのなら、むし歯になっても初期のうちならば、自然治癒力によってむし歯を治すことができるのであり、であるのなら初期むし歯を見つけて早期に対処するなんて発想がいかにばかげているかが分かるでしょう。