糖質制限やMEC食を実践すると、血中ケトン体濃度が上昇し、ケトン尿が出るようにな
る人がいます。人間は長らく飢餓と戦ってきましたから、尿からエネルギー源を排出する
こと自体、異常な事です。
血糖値が上昇し、170mg/dlを超えると、尿からブドウ糖が排泄されるようになります。これは、高血糖状態(200mg/dl以上)になると、血管内皮細胞の糖化による損傷が起こり危険な状態になるため、それを回避するための防御反応ともいえるかもしれません。
ケトン体は遊離脂肪酸から肝臓で合成されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の事を指し、脂質代謝におけるエネルギー源として使われます。ケトン体を作る原料である中性脂肪(トリグリセリド)は、主に脂肪細胞に蓄積されていて、必要なときに血中に放出されます。
中性脂肪はグリセロールに三つの脂肪酸がくっついた形となっています。脂肪酸には飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸があり、また長さによって短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に分かれます。肝臓で脂肪酸はケトン体になりますが、余ったグリセロールはどうなるのでしょう?
グリセロールは肝臓で糖新生、すなわちブドウ糖に変換されます。脂質からは、脂肪酸がケトン体に、グリセロールがブドウ糖になるのです。
人間の活動のエネルギーは、正常な人では1/3が糖代謝で2/3が脂質代謝です。ところが糖質の過剰摂取が続いて低血糖症になると、インスリンの過剰分泌が起こります。いわゆる高インスリン血症です。インスリンの過剰分泌によって血糖値が下がり、血糖値を上げるためにグルカゴン、アドレナリン、糖質コルチコイド、チロキシン、成長ホルモンなどが分泌されるのは、低血糖症で説明した通りです。
高インスリン血症になると、インスリンの働きによって脂肪細胞からの中性脂肪の遊離の抑制や、筋組織などへのケトン体の取り込み抑制が起こります。インスリンは全身の各組織に糖代謝を優先的に行わせるホルモンですから、高インスリン血症ではいくら血中ケトン体があっても、それを組織がエネルギー源とすることができないのです。
ちなみに糖尿病で、高インスリン血症にもかかわらずインスリン抵抗性によって末梢組織がブドウ糖をエネルギー源として用いることができず、かつケトン体もエネルギー源として用いることができない状態となるのが、糖尿病性ケトアシドーシスです。しかし、インスリン抵抗性に問題が無い人であれば、これを心配する必要はありません。
長期にわたり糖質過多の食生活で低血糖症になっている人は、高インスリン血症によって脂質代謝がうまく行えない場合があります。このような人が急に極端な糖質制限を行うと、中性脂肪からグリセロールを原料にブドウ糖を作り、ブドウ糖を主なエネルギー源とする半面、遊離脂肪酸から作られたケトン体は使われることなく余ってしまい、血中濃度が急上昇してしまいます。血中ケトン濃度が高くなると、尿からケトン体が排泄され、ケトン尿がみられるようになります。
ですからケトン尿がある人は、高インスリン血症があり、脂質代謝がうまく働いていないということになります。低血糖症が改善し、高インスリン血症が改善されれば、脂質代謝メインの正常なエネルギー代謝となって、ケトン尿は改善することでしょう。